藤沢店の田中です。
ここ最近、身の程知らずで偉そうにサーフィンのカルチャーについて語ってしまっておりましたが、サーフボードを選ぶにあたって、性能(多くの方の場合がショートボードのような動き)を求めすぎると、最終的にはジレンマに陥ってしまい、いつまでたってもマジックボードに出会えないということをご説明させていただきたいという気持ちからでした。
特に若いころからショートボードに乗っていた60代以上の男性の方の多くがこのジレンマに陥ってしまい、残り少ない(失礼m(__)m)サーフィン人生をストレスとともに過さなければならなくなる方が多い気がします。
さすがに60歳を過ぎるとほとんどの方がパドリングの衰えを感じます。
そこでご来店され、ウェーバーやハーバーの最速テイクオフモデルにご興味を示していただきます。
この段階で私は、「ご購入いただくのは大変うれしいですが、今まで短いボードやハイパフォーマンス系のロングボードに乗っていた方の多くは、カリフォルニア系のシングルフィンロングボードはフィーリングの合わない方が多いですよ」
「短いボードやハイパフォーマンスロングボードはレールのエッジを使ってアップスンをしながらボードを加速させますが、レールにエッジのないシングルフィンロングボードはレールを沈めボードを波のハイラインに上げることによって加速させるんですよ・・・レールは丸いからアップスンでは加速できないんですよ。(それは格好悪いですよ)」
「それにボードを縦方向に当て込むようにはデザインされていないんですよ」
「足を開いて姿勢を低くしてがに股で乗るのではなく、足を閉じ気味で格好良く乗らなきゃならないんですよ」
「それでも大丈夫ですか?」と聞くようにしています。
これは決して売りたくないということではなく、せっかく選んでもらったのに、勘違いによって買ったボードに後悔する方が多いからです。
次の週になって「先週買ったボードなんだけど、テイクオフは速いんだけど、動かないんだよね。重いし・・・・」という方が多いからです。
だからと言って「ではお金をお返ししましょう」とは、さすがに言えないので、そんなことでお客様が後悔されないように、失礼を承知でくどくどと説明させていただいているのです。
この例は実は60歳以上の方だけに限ったことではありません。
「サーフボードはサイズに関係なく同じように動かすものだ」と、思っている方が実は大半です。
でもどんなに軽く、薄く、幅の狭いボードでも、ロングボード(=9フィート以上)という制限がある限り、ロングボードはショートボードにはなり得ないのです。
追求すればするほど、そのルールの中でジレンマに陥るのです。
だから世界のロングボードシーンは1990年後半からこのジレンマに気づき、あっという間にクラシックシングルフィンへと変わっていったのです。
最終的には、どんなボードを選ぼうが個人の自由ですが、こんな例もあるんだとご理解いただき、次のボードを考えるにあたっての参考にしていただければ幸いです。
そこで今日は、天才ロビンキーガルの創ったボードを1本ご紹介させていただきたいと思います。
ロビンキーガルは、1967年頃からオーストラリアで興りつつあったロングボードの精鋭化がカリフォルニアの大手サーフボードブランドによって遮断されたことによって、その後の純粋なロングボードの進化が絶たれ、ある日突然にショートボードの時代が到来したことを10代の中ごろに知りました。
もしその大手サーフボードブランドの圧力がなかったら、オーストラリアで開花したロングボードはどのように進化したのだろうという命題にそってガトヘロイブランドのサーフボードを作っています。
”なぜそれを作ろうと思ったのか?”という雑誌の質問に対し、以前こう答えています。
「誰もそのような視点でサーフボードを作っていなかったからさ。だから自分で作るしかないと思ったんだ」
それ以来、ロビンキーガルは唯一無二のシェーパーとなりました。彼が世界的に評価される理由はそこにあるのです。世界中にたった一人のコンセプトを掲げているシェーパーなのです。
その彼が、10年ほど前、マニアックで著名なコレクターであるお客様から「もしロビンキーガルがサーフボード黎明期の1950年代後半のベルジータイプのボードをシェープしたら」という要望に対して答えを出しました。
それがこの『プレイピッグ』です。
アウトラインは伝統的なベルジータイプのピッグ形状です。
ストリンガーは、1/4インチのレッドシダーを1インチのバルサウッドでサンドイッチした”リバースTバンドストリンガー”というレアで超高級仕様です。
ノーズ部分はかなり絞り込まれています。
ロッカーはノーズが少々キックアップされているほかは、抑えられた緩やかなイーブンロッカーです。
レールはロビンのシェープには珍しい、比較的丸みを帯びた50/50です。
ボトムはフラットに近いベリーロールです。
フィンにはガトヘロイオリジナルのベースの非常に広い「B」フィンがセットされています。
確かにクラシック感はありますが、ビンテージの感覚を受けないのは、一つ一つのシンプルな形状が融合された時に生み出される、完成度の高さがあるからです。
1950年代のボードを忠実に再現し、その当時自分がもし存在していたら、という目線でサーフボードを作るロビンキーガルの創ったボードが、当時のオリジナルに比べ、はるかに完成度の高い仕上がりになっているのはむしろ当然です。
重要なのは、このボードに乗ると1950年代を感じることができることです。
なぜなら、この『プレイピッグ』には、1960年代になって考案されたシェープのアイデアは一つも取り入れられていないのです。
ここがロビンキーガルを天才と言わしめる理由です。
完璧な仕上げとこだわりが、比類なきボードを生み出しているのです。
そのために、この『プレイピッグ』は、操作性においても、ノーズライディングの性能においても、それ以降に作られたボードの性能よりも劣っているのでです。
しかし実際にこのボードを目にすれば、そんな性能の差のことなどはどうにでもよくなるはずです。
このボードの存在感に圧倒され、魅力にはまっていくでしょう。
結局、サーフボードを選ぶ基準とは、そんなものなのです・・・と申し上げたかった次第です。
皆様のご来店、お問い合わせ、お待ちしております。
シーコング藤沢店
田中