藤沢店の田中です。
新型コロナウイルスの影響で昨年来、NEWボードの在庫が大変少ない状況が続いていますが、大変ありがたいことにボードのご購入を求めてご来店されるお客様の数は以前より多い印象です。
大半のお客様は「テイクオフが速くて乗りやすいボード」という噂を耳にしてウェーバーやクリームのボードをご希望されます。
もうすでにそれらのボードを所有されていたり、ロングボードにはまり次のボードをお探しの方はガトヘロイ、アンヒンジド、エルモア、サーファビリー、ダノー、BMTなどのボードをお探しになられています。
ボードをご購入されるお客様は次の新しいボードへの期待が膨らみ、人気のボードを手にしたら魔法の杖のように何でもできるということを期待されます。
確かにシーコングには世界中で”本物”と認められる人気ブランドを取り揃えていますが、これらのボードがすべてを解決するわけではないこと、本物であるが故に必ずしも“魔法の杖”とはならないことを、ちゃんとお伝えしなければならないと思っています。
そうでなければ、せっかくご購入いただいたボードに満足感が得られず、挙句の果てにひっそりと手放してしまう方が少なからずいることを長年の経験で学んできたからです。
私たちは人気ブランドを取り扱っていますが、それぞれのサーフボードについて優劣があるとは思っていません。
ただ、ロングボードはすべて同じではない。それぞれのボードが違ったコンセプトで作られているために、まったく違った特徴、性質を持っているので、それを知らずしてボードを買ってしまうと、「期待していたほど・・・」、「思っていたのと違う・・・」ということになってしまいます。実際に大変多くの方がそう思われています。
そのことをご説明するために、今回は「ネオクラシック」と「モダンロングボード」の違いについてご説明させていただきたいと思います。
日頃から、どうすれば皆様に「後悔しないボード選び」についてわかりやすく説明できるかについて考えながらブログを書いたりしているのですが、あらためてしっかりとお伝えしなければ皆様に本当のご満足は感じていただけないと思っています。
ということで、少々長くなりますが、もしそのようなことにご興味がございましたらお読みいただければ幸いです。
サーフボードは1950年代の黎明期より、いわゆる古典的なロングボードを主として始まりました。
その後、10数年をかけてロングボードは少しずつ進化を遂げ、コントロール性が高められていきました。これはもともとのサーフボードが重く、ロッカーのないものだったので大変コントロールに難があったためです。
そして1960年代後半になり、9フィートより短く、薄く、シェープされたボードにより、サーフボードの操作性は一気に高まり、ホットジェネレーション期、エボリューション期を経てショートボードの時代へと突入します。
サーフボードが短くなっても、相変わらずボードのコントロール性を高めることが多くのシェーパーの目的でありました。
ボードにはロッカーが付けられ、レールにはエッジが施され、フィンの数も増えていきました。
サーフィンはスポーツの一部のようにコンテストが主流になり、そのコンテストでいい成績を収めるために、今に至るまで形状だけではなく素材に至るまでサーフボードは進化を遂げています。
高度に発展したボードは大会で好成績を収めるためのツールとしては評価されるものですが、コンテストには興味がないサーファーにとっては、コントロール性能どころではなく単に難しすぎる手に負えない代物と感じられるようになりました。
そのようにコンテストに背を向けてもサーフィンを楽しみたいと思う人たちは、最新のアクロバティックなボードではなく、もう少し浮力があり、イージーなボードを求めるようになりました。そしてそのムーブメントは、少しずつ時代に逆行し、前時代的なボードに目を向けられるようになりました。当然最新のサーフボードに比べ性能面では劣るのですが(あくまでも同じ動きを目的とした場合)、それらのボードによって得られる“緩い”フィーリングは格別なものとして受け入れられるようになりました。
それが現在のトランジションボードの人気へとつながっていることは想像できると思います。
ロングボーダーに関していえば、そのムーブメントはもっと早い段階から興っていました。
1970年代に入り、世間からすっかり見捨てられたようになっていたロングボードは、1980年代の中ごろより再び注目されるようになり、徐々にロングボードに乗る人が増えてきました。
しかしその主流を担っていたのは、コンテスト主体のショートボードの発展に力を注ぐ人たちと同じであったため、「ショートボードのようなパフォーマンスができるロングボード」がビーチを席巻していきました。
それは、長さは9フィート以上あっても、ロッカー、レール形状、ボトム形状、フィンのセッティングはまさにショートボードと同じでした。
そういった形状のため、乗る時は足を開き、アップスで加速させ、波頭に向けてボードを当て込むという、ショートボードと同じ動きが求められました。
そのような動きを求めれば求めるほど、ボードは薄く、軽く、ロッカーをつけざるを得なくなりました。しかしながら「ロングボードは9フィート以上」という規定があるために、「ロングボードでありながらショートボードみたい(浮力はないし、テイクオフも楽じゃない。その上、ロングボード特有のグライドすら感じることができない)」という矛盾にぶつかることになります。
矛盾を感じていたサーファーたちは1980年代後半には、60年代の時代に遡ったボードの魅力を再発見し、当時のボードに近いボードを自分たちの手で作ることを始めました。
一方、1950年代、60年代から続くクラシックブランドは往時のボードでコントロール性を高めることに苦労していたため、いわゆる“オールラウンド”と言われるボード(シングルフィンで浮力はあるけどボードの形状はサイドフィン付きのボードとほぼ同じ)を作り続けていました。そしてそれらのタイプのボードも大変人気を博していました。
そして1990年代の前半にジョエルチューダーが出現したことによって、カリフォルニアを中心にロングボードの舵は大きくシングルフィンロングボードへと切られました。
長くなりましたがここからがポイントです。
ジョエルの出現はロングボードシーンを大きく変えました。ロングボーダーはこぞってシングルフィンに乗り、ノーズライディングを競い、クラシックスタイルを体現しました。
多くのシェーパーがスタイルを掲げ、代表的な故ドナルドタカヤマ氏のモデルTからインスパイアされたボードなどを“クラシック”を合言葉のように作ることとなりました。
しかしこうした流れに疑問を感じていたロビンキーガルは「ジョエルのスタイルはクラシックじゃない。モダンサーフィンだよ。なぜなら1960年代のボードはもっとロッカーがなかったから、あのようなノーズに長く滞留できるボードは存在しなかったんだ。当時のボードはロッカーが少なかったため、ボードの長さ全体を使ってボードをトリムする必要があったからサーファーはボードの上を行ったり来たりしたりするホットドッギングが主流であり、特にテールロッカーがなかったから大げさなドロップニーカットバックをしてたんだ」と言いました。
同様にそれから後年になって発売されたウェーバーの「プレイナー」モデルやCJネルソンのノーズライダーモデルなども、一見クラシックスタイルのノーズライダーと見られますが、これらもモダンロングボードとして考えられています。
その後、ロビンキーガルはそれらのボードとは基本コンセプトが異なるボードを作り始め、それが広く普及していきます。
ロビンキーガルは幼い頃より熟読していたすべての古いサーフィン雑誌を元に、1960年代当時のボードを徹底的に研究しました。
それによって、当時のボードに見られるデザインとその過程を正確に知ることとなり「当時のボードを自分なりに再現してみよう」と考えるようになりました。
そしてそのために当時のボードを再現するのだから、当時の知識や技術の範囲を超えないものを作らなければならない。
同時に彼はカリフォルニアのビッグブランドの思惑によって断絶させられてしまったロングボードからショートボードへの進化を改めて辿り、真のトランジションボードを創り出すことを自分の命題としました。
そのように考えてボードを作っていたのはロビンキーガルただ一人だけだったのです。
ロビンの派手なパフォーマンスと人柄によってそのコンセプトはカリフォルニアの目と鼻が利くサーファーたちを引き付けることとなりました。
ロビンがクリームを始めた当時集まったメンバーの中心にアレックスノスト、クリスチャンワック、コーディシンプキンス、トーマスキャンベル、CJネルソン等が顔をそろえたのは必然だったとも言えるのです。
彼の作るボードは「ネオクラシック」とメディアでは呼ばれるようになりました。
その後の彼の活躍、ロングボードの変遷は皆様も知るところと同じですが「ネオクラシック」と「モダン」の違いとは何でしょうか。
【ネオクラシック】とは、
1950年代、60年代、70年代初頭までのサーフボードを当時に遡って再進化させたボードのことです。いうなれば古いボードを当時のルールに従って再チューニングを施したボードとなります。
そのために人気があっても、必ずしもそれが万能を意味するわけではなく、むしろボードによっては乗りにくいと感じるものがあるかもしれません。なぜなら彼らはボードを作るに際し、ボードの性能向上は求めますが、それ以上に時代背景を重視してボードを作ります。だからボードが重かったり、大きなフィンがついていたりするのです。
1950年代のスーパーカーでさえ現在の一般的な乗用車ほどの性能を持たなかったのと同様です。ネオクラシックのサーフボードとはこのようなコンセプトにもとづいて作られたサーフボードなのです。
当時のボードをチューニングし直すことが、当時のフィーリングを味わえる方法なので、現在のサーフボードと比べることはナンセンスです。それは古い車やオートバイ、楽器や懐かしいグッズ、ノスタルジーに対してご興味がある方であればおわかりいただきやすいと思います。
そこに着目しこだわりぬき、その姿勢がぶれないからこそ人々は惹きつけられます。
シーコングで取扱うブランドは、まさにそれらの集合体とも言えます。
実はこれは初めから狙ったわけではありません。
たまたまロビンと知り合ったために、彼によって紹介されるサーファーやシェーパー達がみな同じ考えを持っていたという感じです。類が友を呼ぶというように、まさに本物が本物を呼び、現在に至るシーコングのラインナップが完成されたのです。
対して【モダン】とは、
文字どおり現代的なボードです。
過去にとらわれず、素材を含めたあらゆる側面から進化を遂げたボードです。
上述のウェーバーの「プレイナー」やCJネルソンが乗るボードはこれにあたります。
一見、クラシックと見分けがつきにくいのですが、それらのボードにはクラシックの時代にはなかった、ロッカーやレールの形状が用いられています。
それによって性能は格段にアップされるのですが、ロビン、アレックス、トロイ、ジャレッド、デーンピーターソンなど現在のカリフォルニアで主流をなすサーファーたちは、それらを評価の対象とすることはありません。
実際には多くのシェーパーがこのタイプのボードを作ります。それは彼らの多くが「性能のいいロングボード」を作ろうとし、自分のこだわりよりもユーザーの方の希望を優先します。
そのために彼らはシングルフィンログも作れば、サイズにかかわらずサイドフィン付きのボード、ビッグフィッシュなども作ります。
彼らも多くのユーザーを抱えていますが、残念ながらメインストリームとなりえないのはコアなサーファーたちから見ると、やはりその姿勢がぶれているからにほかなりません。
上記のように【ネオクラシック】と【モダン】は似ているようで、それに乗るサーファーはまったくタイプが異なることとなります。
これを知らなければ「人気があるボード=性能がいい」を体感できなかったり、買ったボードに「あれっ?」ということになってしまいます。
本当はサーフィンは趣味であり、遊びでもあるのでこのようなことはどっちでもいい話ですし、これらのことは、シーコングにとって都合のいい話だけなのかもしれませんし・・・
それでも、いい波にはなかなか巡り合えないし、混雑してるし、そもそもボードの性能をすべて引き出せるわけでもないし・・・とお考えなら、せめてこだわりを持ってボードをお選びいただくのはどうでしょうか?
サーフボードにはシンプルな性能を求め、好きなサーファーが乗っているボードを選んだり、うんちくに想いを馳せるのはサーフィンライフを豊かにしてくれます。
サーフボードは波に乗るだけではなく、文化や背景にもご興味を持っていただければ、楽しさも倍増するはずです。
知らずに買ったボードに後悔する、ということだけはないように引き続きサーフィンライフをお楽しみください。
勝手なことばかりを長々と書いてしまって申し訳ございません。
最後までお読みいただきまして、まことにありがとうございます。
シーコング藤沢店
田中